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メキシコ危機では、「テソボノス」(メキシコのドル建て短期国債)を保有していた外国人投資家は、購入時の利回りからハイリスクが明らかだったにもかかわらず、無傷で切り抜けた。
メキシコが償還できなくなると、アメリカ財務省とIMFが乗り出して投資家を救ったのだ。
先頃ロシアで同様の状況が起きたが、アメリカ財務省は、投機家を救済するのかという批判を恐れて、効果的な救済策を打てなかった。
前章のリアルタイム実験で述べたように、アメリカの誤りは、投機家が痛手を受けた「後にも」動こうとしなかった点にある。
喜ばしいことに、IMFも学習が早い。
ウクライナに対する一億ドルのプログラムでは、IMFは新しい条件を課している。
短期国債の八○パーセントが、「自主的に」低利回りの長期国債に転換されるまで26ラは、プログラムをスタートさせないというものだ。
これによって、投機家や無謀な融資を行った銀行は大きな損失を被ることになる。
一九九五年のメキシコでの救済劇とは大違いだ。
IMFの借り手に対する姿勢と貸し手に対する姿勢に非対称性が生まれた理由は、いくつか挙げられ、それらは互いに関連している。
第一に、IMFの主たる使命は国際金融システムの維持にある。
危機の際に貸し手にペナルティーを科したら、西側諸国の銀行に対するダメージが大きすぎて、金融システム全体の崩壊というリスクをおかすことになる。
第一に、IMFがプログラムを成功させるためには商業銀行の協力が必要であり、銀行はみずからの立場をどのように利用すべきか十分に心得ている。
IMFは最後の貸し手になれるだけの資金を持ち合わせていないため、危機が勃発したら、市場の信頼を回復することによって対処していくしかない。
アジア危機でIMFの初期のプログラムが失敗したのは、まさにこの市場の信頼を得ることができなかったためだ。
最後に、IMFは資本主義システムのセンターにいる国々によって管理されている。
IMFが貸し手の不利になるようなことをしたら、IMFを管理している出資者たちの国益を損なうことになる。
しかし、システムをより安定したものにするためには、まさにそれこそ必要な措置なのだ。
IMFは、貸し手も損失を負担することを、介入の条件にすべきである。
トラブルの渦中にある国に条件を課すのだから、貸し手にも条件を負わせるべきだ。
トラブルが(アジア諸国の場合のように)民間部門に起因する場合は、特にその必要がある。
これは、実際上は、IMFが自主的な企業再編を容認するだけでなく、積極的に促すことを意味する。
破産手続きは、先進国の国内の破産手続きの線に沿って、銀行に損失を引き受けさせるものになるだろう。
私見では、IMFの対応の非対称性は、信用保証機構、もしくは国際融資や国際投資を促進するなんらかの他の方法を導入しないかぎり、是正することはできない。
この非対称性(別名モラル・ハザード)が、不健全な国際投資ブームを生み出したが、それなくして十分な国際投資の流れを発生させるのはきわめてむずかしいだろう。
一九九四年のメキシコ危機の後、新興市場が急速に回復したことは、実に誤解を招きやすい。
すでにみたとおり、メキシコ・テソボノスを保有していた外国人投資家の救済は、非対称性を究極の形で確認するものだった。
資本の流れがさらに大きく、無分別になったのも当然といえよう。
新しい処方が適用されていたら、メキシコ・テソボノスを保有していた外国人投資家たちは、テソボノスの長期国債への転換によって大きな損失を被っていたはずだ。
そうなっていたら、ロシアやウクライナへの投資には、はるかに慎重になっていたにち理想論からすると、IMFは、グローバル金融危機がおさまるのを待ってから、やり方を変えるのが望ましいはずだった。
しかし、事態の進展によってこの選択肢は消えた。
投資家や融資者は大きな痛手を受け、群れをなして周縁から逃げ出しており、その結果、緊急事態が生まれている。
IMFが今すぐやり方を変えても、失うものは何もなく、得るものは大きいのだ。
債務の株式転換をしようがすまいが、このところの損失で傷ついている貸し手になんらかの刺激を与えないかぎり、周縁諸国への資金の流れが再開されることはないだろう。
したがって、信用保証保険機構をIMFの恒久的な制度に発展させる必要がある。
そうすれば、グローバル金融システムに現在のものよりはるかに優れた仕組みが与えられることになろう。
飴と鞭を併用することで、国際的な資本の流れの飽食状態も飢餓状態も回避できる。
この新機関は、おそらくIMFの一部門として存続していくだろうが、国際融資・国際信用を定められた限度額まで明確に保証する。
債務国は、公的債務、民間債務を問わず、また保険が付保されているか否かにかかわりなく、すべての借り入れについてデータを提供することを義務づけられる。
そのデータを基に、当局は、ここまでは保証してもよいという限度額を設定する。
各国は、それぞれその限度額までは、プライム。
レート(最優遇貸出金利)にささやかな手数料を上乗せしたコストで、国際資本市場を利用することができる。
限度額を超えると、貸し手はリスクを負うことになる。
飴と鞭を併用することで、国際的な資本の流れの飽食状態も飢餓状態も回避できる。
限度額の設定は、世界の全般的な経済状態に加えて、個々の国が取っているマクロ経済政策や構造政策を考慮して行われる。
この新機関は、事実上、一種の国際中央銀行の機能を果たすだろう。
どちらの方向への行き過ぎも回避するよう動くだろうし、そのための強力な手段も持つことになるはずだ(注4)。
最も厄介な問題は、個々の国に割り当てられた信用保証を、その国の借り手の間でどのように配分するかということだ。
国家にその権利を行使させると、権利の乱用を招く恐れがある。
保証は、互いに競争している公認銀行を通じて配分するのがよいだろう。
これらの銀行は厳しく監督され、不健全な融資や利害の対立を生む恐れのある他の事業分野に携わることは禁止される必要があるう。
また、個々の融資で生じる損失の影響を緩和できるよう、十分な資本を持つことも要求されるだろう。
要するに、これらの銀行には、一九三一年の銀行恐慌によるアメリカの銀行システム崩壊の後、アメリカの銀行にかけられたような、厳しい規制を課す必要があるということだ。
銀行システムを再編し、適切な規制を導入するには時間がかかるだろうが、この計画を発表するだけで金融市場を鎮静化する効果があり、さらに細かく練り上げる時間が稼げるだろう。
このような複雑な仕事をはたしてやり遂げられるのかと、疑問を持つ向きもあるだろう。
それに対する答えはこうだ。
新しい機関は必ず誤りをおかすだろうが、市場が貴重なフィードバックを提供することで、それらの誤りは正されていく。
つまるところ、すべての中央銀行がこのような形で動いているのであり、しかも中央銀行はおおむねかなりよくやっている。
このような計画がはたして政治的に実現可能かどうかこちらの方がはるかに問題だ。
すでにIMFに対してさえ、一切の市場介入に反対し、なかでも国際機関による市場介入には特に強く反対する市場原理主義者から大きな反対があがっている。
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